片桐仁 コレクション展の愉しみ in アーティゾン美術館

2020年にオープンし、新たな一歩を踏み出したアーティゾン美術館。現在開催中の展覧会「STEPS AHEAD 新収蔵作品展示」を、片桐仁が巡る

PHOTOGRAPHY: IGARASHI KAZUHARU
STYLING: KATAOKA MAYAKO
HAIR & MAKE-UP: KUNIKI NAHO
TEXT: YAMAUCHI HIROYASU
片桐仁 コレクション展の愉しみ in アーティゾン美術館

展示室に立つ片桐さんの背後に見えるのが、藤島武二《東洋振り》。古今東西のモチーフや描法を混合させた一枚

アートは自由に観ればいい

東京駅至近の地に佇む、アーティゾン美術館。戦後間もなく開館したブリヂストン美術館の伝統を引き継ぎ、2020年に名称も新たにオープンした。

3フロア分を展示スペースとして用いる巨大な館の入口に、人影がひとつ。お笑い、演劇、創作と多才な活動を続ける片桐仁だ。アートと一般の人を結びつける触媒として「普及活動」にも注力する片桐が、これから同館を巡る。果たしてどんな出会いになるのか。

「コレクション展と聞くと、『これはいつ、なんで買おうと思ったんだろう? いくらぐらいだったのかな? 値切ったりとかするのかな?』などなど、いろんなことを考えちゃいます。下世話ですかね? でも、来歴や背景にあるストーリーを知ってこそ、俄然興味も湧いてくるじゃないですか。コレクションを通して見ると、美術館が考えていることやしたいこと、目指すところが見えてきそうで楽しみですね」

同館では現在、初公開の新収蔵作品92点を中心とする201点、及び芸術家の肖像写真コレクションから87点を観られる「STEPS AHEAD 新収蔵作品展示」が開催中だ。同館を運営する石橋財団は、もともと印象派や日本近代洋画を柱に収集を続けてきた。近年は二十世紀美術などコレクションの領域を広げ、日本有数のコレクションを形成している。この展覧会では新収蔵作品を中心とした展示を通して、同館の前進、進化が体感できる。

最初の展示室に足を踏み入れる。片桐の目に真っ先に飛び込んできたのは、藤島武二《東洋振り》だ。

「日本人らしき女性が描かれているので、日本の画家によるものなのかなとは思う。でも作風だけ見たら、いつ、どの地域で描かれたものなのか判断できないかも。

印象的な横向きの構図は、ルネサンス時代の肖像画の描き方に倣っているのですね? そして女の人が着ているのは、中国服なんですか。つまりは一枚の絵に、東西文化をミックスして詰め込んでいる。整った美しい絵ですけど、同時にけっこう野心的でもあります。これが描かれたのは大正時代。日本の文化芸術を世界にアピールしていくぞ! という気概が強く感じられますよ。

同じ室内に、ルノワールやピカソの見覚えある有名な作品が並んでいるのもおもしろい。影響を与えたもの・与えられたものの関係性がはっきりと見てとれます」

ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》1908年

ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》1908年

セクション3の室へ進み、中心に据えられた小さい絵画の前へ。カンディンスキー《3本の菩提樹》は新収蔵作品だ。

「僕にとってカンディンスキーは、すごく懐かしい存在なんです。中学の頃から、父親と美術館へ行くのが習慣になりました。ゴッホ展、クールベ展、それにカンディンスキーの展覧会もあったなあ。そこで刺激を受けて、油彩画やりたい! と思うようになって、それが美大に進学するきっかけとなったんです。当時のスケッチブックには、僕がカンディンスキーみたいな絵を描こうとして、繰り返し試みている跡が残っていますよ。カンディンスキーといえば抽象絵画だけど、これはまだもののかたちが残ってます。風景や建築といった具体的なものから、抽象的なイメージをつくり上げていった彼の創作過程が、よくわかる作例ですね」

リー・クラズナー《ムーンタイド》1961年 ©︎2021 Lee Krasner / ARS, New York / JASPAR, Tokyo C3455

リー・クラズナー《ムーンタイド》1961年 ©︎2021 Lee Krasner / ARS, New York / JASPAR, Tokyo C3379

エレイン・デ・クーニング《無題(闘牛)》(部分)

エレイン・デ・クーニング《無題(闘牛)》(部分)。大画面にパンチの効いた色彩が乱れ飛び、色彩の奔流に呑み込まれそうな気分に

セクション5の展示は「抽象表現主義の女性画家たちを中心に」と題されている。大きな壁面に、落ち着いた色合いのリー・クラズナー《ムーンタイド》と並んで掲げられたのは、エレイン・デ・クーニング《無題(闘牛)》。

「ほとばしる色彩から、なんだか激しい動きが感じられます。あ、そうか、闘牛の情景が描かれているからなんですね。絵のモチーフが何なのかといった『情報』は別になくたって構わないけど、知ることでよりよく見えることがあるのもまた確か。だから僕としては、いったん何の予備知識も入れずひと通り観て回り、二周目で解説板やキャプションを読んだり音声ガイドを利用する観賞法をよくします。素直に心を動かされたいし、まとまった知識も持って帰りたい。せっかく美術館に来たのなら、どちらの欲望も満たしたいですから」

マルセル・デュシャン《「マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)」シリーズB》1952年、1946 年(鉛筆素描) © Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo 2021 C3455

マルセル・デュシャン《「マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)」シリーズB》1952年、1946 年(鉛筆素描) © Association Marcel Duchamp / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo 2021 C3379

セクション7では、マルセル・デュシャン《「マルセル・デュシャンあるいはローズ・セラヴィの、または、による(トランクの箱)」シリーズB》に遭遇する。

「おお、デュシャン! 現代美術の起源の人ですね。携帯できる美術館として、自分のこれまでの作品のミニチュアをトランクに詰め込んだのか。確かにこれで『わたくし、こういう者です』とプレゼンされたら、最高にインパクトありますよ」

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

アンリ・マティス《ジャッキー》1947年

最後に訪れた展示室では、アンリ・マティスの小さな素描作品《ジャッキー》と出会った。

「誰の顔を描いているのかといえば、当時十代の孫娘ジャッキーなのだとか。いいですね、孫娘への異常なまでの愛情が感じられて。いや孫って相当かわいいらしいから、そりゃ偉大なるマティスだって翻弄されて当然です。きっと孫にいろいろ言われながら描いたんですよ。『おじいちゃんまだ? 早く描いてよ。できた? え、これ私? あんま似てなくない?』とか何とか。御大の絵で勝手な想像を膨らませてしまいましたけど、アートなんてそれくらい自由に観てしまえばいいと思うんです。美術館というのは、何かを感じたり考えたりする『よすが』だったり、大喜利のネタみたいなものが、きっと見つかる楽しい場所なんですよ」

片桐仁プロフィール

片桐仁 1973年生まれ。現在、俳優としてテレビ、舞台、ラジオなどに幅広く活躍。粘土作品で個展を開催するなど彫刻家としても活動。著書に『親子でねんど道』など

展覧会情報

展覧会 STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示
期間 2021年2月13日(土)-9月5日(日)
10:00-18:00 (毎週金曜日の夜間開館は、当面の間中止)*入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(5月3日、8月9日は開館)、5月11日(火)-14日(金)、8月10日(火)
会場 アーティゾン美術館
〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
備考 日時指定予約制