2017年2月20日

白と黒

 同じ大阪生まれのデザイナーの長友啓典とイラストレーター黒田征太郎の事務所K2の設立は1969年のことだった。遊び心に満ちたポスターは二人の権威にこびない独特な自由さがあった。ラジオ全盛時代、黒田はイラストレーターに収まらずラジオのディスクジョッキーやテレビの司会、あげくは映画プロデューサーまで、時代の罷児として剌激的な活躍を見せていった。長友は黒田というピッチャーのビーンボールまがいの悪球を受けるキャッチャーのような存在だった。和田誠はK2についてこう記したことがあった。

「二人は絶妙なコンビであり、実に上手にバランスをとりながら歩き続けている。黒田君の方が向こう気が強く、喧嘩っ早い。長友君は何が来ようと柳に風で、ニコニコ受け流している」

 今年の5月、京都でK2の展覧会があると聞いた。55年を超える二人の作品が一堂に会すると思うと楽しくなる。

 K2の作品の中で、一番好きなものはバー「ホワイト」のマッチのデザインだった。作家や写真家、映画俳優や漫画家が集まるそのジャズバー「ホワイト」のママは伝説的な人だった。その後六本木に移ったが、四谷時代のマッチは秀逸で、 手書きの地図の上に「絶対高級美人クラブ・ホワイト」と記されていた。その怪しげなキャッチは糸井重里がつけたものだ。美しいママの名は宮崎三枝子。荒木経淮はホワイトに足しげく通い宮崎の肖像写真を何枚も記録していった。しかしバーが繁盛しているのは、ママの容貌ではなく人柄なのだとすぐに気づく。何のかまいもしないことの気持ちよさがあると思った。ママにこう言われたことがある。

「酒を呑むやつは信用するな」

 ぼくは大きく頷いた。

「でも」ママが続けた。

「でも、 何?」

「酒を呑まないやつはもっと信用するな」

 どこかの探偵みたいな言い草だった。 絶対的な価値を求めてここに人は通った。

「来てもつまんないから、みなさん来ないでください。と一同声を揃えて言ってます」

 糸井の気持ちが入ったホワイトヘ贈った言葉だ。信用されない男たちのホワイトでの椀飯振舞を想像するだけで楽しい。

スイッチ編集長 新井敏記