【MONKEYからの贈り物】「マシュー・シャープのクリスマス・ストーリー 」

作家マシュー・シャープが自身のブログで毎週掲載していた奇想天外な超短篇を、MONKEY編集長・柴田元幸訳にて、2018年から2019年にかけて毎週お届けしたMONKEY定期購読特典WEB連載『マシュー・シャープの週刊小説』。連載終了から約1年。マシュー・シャープから新たな短篇が届きました。テーマは「クリスマス」です。今回は特別に対訳形式でお楽しみください。
 

マシュー・シャープのクリスマスストーリー英語版

マシュー・シャープのクリスマス・ストーリー

訳 柴田元幸

ウォルターはクリスマス・イブにバスタブで酔っ払っている64歳の男に身をやつした預言者である。ずるずると体が滑り落ち、ウォルターは気を失う。浴槽のカビ香る生温かい湯が鼻孔を満たす。虹が彼を包み込み、長年抱えていた問いに答えが与えられる。「元気かい?」ウォルターは妹に訊ねる—— 30年前、ジャージー・ターンパイクの入口で親指を突き出して立ち、ぴかぴかの栗色のバンに乗り込んで走り去って以来会っていない妹に。「大変だったわ」妹は言う。「あたしは殺されて、ほかにもいろいろあった。それから今度は、ひたすら何年も殺されつづけた。やがてそれも止んだ、どうしてかわかんないけど、で、看護師さんやママたちやゲイの叔父さんとかに体を洗ってもらって、黒い布でくるんでもらった。それから、虹にくるまれた。それからあんたが溺れはじめたのよ。起きなさい、ウォルティ」。だけどウォルティは起きたくない。「しばらくは虹なしよ」と妹は言う。「何年も、ただ溺れるだけ」。ウォルティは信じない。彼はわざと溺れつづける。バスタブから湯があふれる。バスルームの床に湯が広がって、下の階の住人マットの部屋の天井が崩れ落ちる。マットも酔っ払っている。マットは階段をのぼってウォルティの部屋のドアをガンガン叩き、試してみると鍵はかかっていなくて、中から水が流れる音が聞こえる。マットは浴室に飛んでいき、溺れているウォルティを引っぱり上げる。ウォルティがマットの鼻にパンチを食わせる。二人はキッチンで椅子に座る。ウォルティは裸、マットは酔っ払いのパジャマ姿で、バーボンの壜から交替でラッパ飲みし、イエスの誕生を祝う。
 

A Christmas Story by Matthew Sharpe

Walter is a prophet disguised as a 64-year-old man drunk in his bathtub on Christmas Eve. He slumps down, passes out. Warm water flavored with bathtub mold fills his nostrils. A rainbow engulfs him and a long-asked question is answered. “How are you?” he says to his sister, whom he hasn’t seen since she stood by the on-ramp to the Jersey Turnpike 30 years ago, stuck out her thumb, climbed into a shiny maroon van, and sped away. “I had a rough time,” she says. “I was murdered, and other things. Then I was just being murdered, continuously, for years. Then it stopped, I don’t know why, and I was washed by nurses and moms and gay uncles, and swaddled in black cloth. Then I was swaddled in rainbows. Then you started drowning. Wake up, Waltie.” But Waltie doesn’t wanna. “It ain’t gonna be a rainbow again for a while,” she says, “it’s gonna be drowning and drowning, for years.” Waltie doesn’t believe her. He goes on drowning, on purpose. His bath overflows. The bathroom floor fills up with water and the ceiling of his downstairs neighbor, Matt, collapses. Matt is drunk too. He climbs the stairs and pounds on Waltie’s door, and finds it open, and hears the water running. He rushes to the bathroom and pulls Waltie up out of his drowning. Waltie punches Matt in the nose. They sit down in chairs in the kitchen, Waltie naked and dripping wet, Matt in his drunken pj’s, and take turns swigging from a bottle of bourbon, celebrating the birth of Jesus.
 

*『マシュー・シャープの週刊小説』(柴田元幸訳)は2021年春に小社刊にて単行本化予定です。

<著者プロフィール>
Matthew Sharpe(マシュー・シャープ)

1966年生まれ、ニューヨーク在住の作家。植物人間になりかけた父親を少年が世話するThe Sleeping Father (2003)、ポカホンタスと9/11と悪夢的未来が入り交じったJamestown (2007) など、これまでに長篇4冊と短篇集1冊を発表している。日本版MONKEYにもこれまで5回登場。

 

【MONKEY特別企画】作家マシュー・シャープ インタビュー Vol.2「物語とは何かを探り出すための新たな実験室」

2019.11.13

【MONKEY特別企画】作家マシュー・シャープ インタビュー Vol.1「書くしかない、と決めて机に向かう」

2019.11.07
 

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