写真家・奥山由之はいつも怒っている【奥山由之イベントレポート 第1回】

3月3日、スイッチ・パブリッシング地下1階のRainyDay Bookstore&Caféで、2月20日発売の「SWITCH Vol.37 No.3 特集 奥山由之 写真の可能性」の刊行を記念したトークイベントが開催されました。登壇したのは写真家・奥山由之と「SWITCH」編集長・新井敏記。今回はその模様の一部を再構成してお伝えします。

『SWITCH Vol.37 No.3 奥山由之 写真の可能性』刊行記念トーク

これまでSWITCH本誌の誌面ビジュアルやSuchmos特集(2017年2月号)の表紙など、数々の撮影を手がけてきた奥山さんですが、編集長の新井との密なやり取りは、意外にも今回の特集が初めてだったといいます。トークは奥山さんとスイッチの出会いや当時のエピソード、そして新井が語る奥山さんと特集を作り上げていく中で感じた心境から始まります——

写真家・奥山由之と「SWITCH」の出会い

新井 奥山君は「SWITCH」での最初の仕事を覚えていますか?

奥山 はい。2013年に細野晴臣さんと青葉市子さんを、今は無き白金台の「ロロ」という喫茶店で撮りました。

新井 2013年8月号、サザンオールスターズ特集の号ですね。今回奥山君とこうして話をするにあたって、奥山君と「SWITCH」はこれまでどんな仕事をやってきたのか、編集部のスタッフと事前に振り返ってみたんです。それで、その中でも2013年の11月号の写真特集に掲載された、本田翼さんの写真がとても印象的でした。

SWITCH Vol.31 No.11

「SWITCH Vol.31 No.11 写真のある生活」奥山由之が本田翼を撮影した「NEW MORNING」を収録

奥山 この撮影、中目黒にある知り合いのオフィスで撮らせていただいたのですが、当時の本田さんは、いわゆる写真家の明確な意図やコンセプトの元に撮られたような写真でお見かけしたことがあまりなかったので、自分が撮ったらどんな写真になるのだろうと思って。お会いしたのはその時が初めてでした。懐かしいですね。

新井 「SWITCH」では毎号、その号の特集の核として、担当編集者による「こういう特集をします」というリード文を特集の扉ページに掲載するんです。今回の奥山くんの特集号のリードは、冒頭「奥山由之はいつも怒っている」という言葉で始まる。穏やかな奥山君の様相に対して「怒り」という言葉はそぐわないようにも思える強いものです。

 けれども、それは奥山君の写真に対するこだわりや一途さ、もっと言えば「執念」でもあると思うんだけれど、そうした奥山君の思いを敢えて担当編集者は「怒り」という言葉で表したんだなと思ったんですね。今回、この特集を作るにあたって、僕自身が奥山君にインタビューしたり何度もやり取りを重ねてきたけれど、そうした経験を経て、このリードの言葉に「なるほど」と納得したんです。

奥山由之が今思う、写真の面白さ

新井 それではスライドで今回の特集を振り返ってみましょう。まずは巻頭の、女優の小松菜奈さんを被写体とした「PERCEPTION」という作品です。

『SWITCH Vol.37 No.3 奥山由之 写真の可能性』p22-23

『SWITCH Vol.37 No.3 奥山由之 写真の可能性』p22-23 「PERCEPTION」より

奥山 まず表紙写真の1枚をどこで撮るのか、撮影場所については新井さんともじっくり相談をしたのですが、新井さんは絶対に僕のアトリエがいいとおっしゃっていて。僕は最初「うーん、どうですかね……」みたいな。

新井 僕ははじめから奥山くんのアトリエで撮るべきだと思っていました。元々奥山君のおばあちゃんが住んでいたという一軒家で。そこの光が好きなんですよ。奥山くんにとって大事な場所でもあるし。

奥山 そうですね。特集にも掲載した「flowers」という新作の写真もそのアトリエ、おばあちゃんが亡くなった後に僕が作業場として使わせてもらっている家で撮ったのですが、その「flowers」の写真を新井さんにお見せしたら、「表紙は絶対にここで撮るのがいい」って。それで最終的にはアトリエで撮影をしました。

新井 この「PERCEPTION」では、小松菜奈さんを撮影した1枚の写真を、ポスターやジグソーパズルなど別の形に落とし込んでいくじゃないですか。読者に対するある種のフェイクとも考えられるけど、奥山君はどのような思いでこの撮影を試みたんですか?

奥山 誌面にも書かれていますが、「PERCEPTION」という言葉は「認識」や「ものの見方」という意味があります。この5年くらいで僕自身、スマホやパソコンで写真を見る機会がすごく多くなったんです。自分の写真もパソコンのモニター上で見ることが多いけれど、僕の場合、モニターで確認して「よし、撮れた!」と、それで終わりにはならないんですね。撮ったあと、額装された1点の作品になったり、雑誌や写真集になったり、ポスターになったりと、何かしらの「モノ」になることが多い。意識的に、様々な状態に落とし込むようにしています。

 そうやって、最初はモニターで見ていた写真が実際に様々なモノに落とし込まれていくと、それまで自分が捉えていた「この写真はこういうものだ」という思いや考えがどんどん変化していくと言いますか、写真が醸し出す表情が変わってくるんです。

 たとえば書店で、この表紙をパッと見た時に感じる印象と、それがポスターになっていたり、スマホの待ち受け画像になっていたりするのを見た時では、また全然違う印象を抱くと思うんです。その、状況によって全く捉え方が変わるというところに、ここ数年あらためて写真の面白さを感じていて。わかりやすく言えば、ちょっとこれは微妙だなと思っていた写真が、2年後に見ると全然違う、すごくいい写真だと感じられることも結構あって。自分の中での文脈が更新されている。それって、写真が「瞬間を切り取ったもの」だからこそだと思うんです。これが映画のように2時間かけてストーリーなり思想なりを伝えていくような表現だと、構成している情報が多いだけに、たとえ見る環境が異なっていたとしても、そこまで大きく感じ方は変わらないんじゃないかと僕は思っていて。

 最近は写真を見るのもパソコンやスマホが普通で、ある短い時間でたくさんの情報を処理している人も多いかと思いますが、写真の面白さって、たった1枚であっても状態を変えることによって捉え方が広がるということを知ってもらえたら嬉しいですね。そこは僕が今一番面白いと思っている要素なので。

一枚の写真の可能性

SWITCH Vol.37 No.3 奥山由之

『SWITCH Vol.37 No.3 奥山由之 写真の可能性』

奥山 写真を撮るようになってまだ間もない方のポートフォリオを見せてもらうことがあって、みなさん本当にたくさんの写真を撮っているのですが、たとえばその中から「これだ!」と思った1枚の写真をセレクトして、その写真の額装に1カ月、ひたすら取り組んでみたらどうだろうと思うんです。1枚の写真と徹底的に向き合うことで、様々な発見があると思うんですね。この写真はこうも見えるのか、とか、続けているうちに、ふと冷静になって見てみると、最初に抱いた印象とは全く違う写真になっていたりする可能性もある。だから、一度そういうことを試してみたら、とよく話すんです。

新井 ポートフォリオを持ってきた人にそんな風にアドバイスするというのはなんだか新鮮です。僕には思いつかなかった。でもそれは奥山君だから言えるのかもしれない。奥山君も写真、1枚しか見せてくれないから(笑)。普通、表紙を決める時は何点かの候補の中から選んでいく。そこでいろんな可能性を追求していくのが楽しいと僕は思っているんですね。その可能性というのは写真の可能性でもあるんだけど、奥山くんは逆にそれを徹底的に削いで、その1点の写真の価値というものを僕らに提示するんです。

奥山 完成した雑誌を書店で手に取る方々は、当然ですけれど他の何十枚という表紙候補の写真を知らないまま、ただその1枚を見るじゃないですか。だから、そういった読者の方々と同じ感覚で、視点で、作り手の方にもその写真をまずは見てほしいと僕は思っているんです。その上で「違う」ということであれば相談を重ねていく。

 一番よくないのは、撮る前から頭の中に「これ」というイメージがあって、そこから逸れているものは全て無しである、という判断をすることです。写真に写っているのは、そこで起きた事実に他ならない訳ですから、まずは、その起きた事柄の中での山頂がどこであるのかを、頭にこびり付いているイメージを剥がして、冷静に読み取る。イメージを固めすぎてしまっていると、その冷静さを失う。目の前で起きる、起こせる事柄の可能性を、最大限に広げておく余裕と冷静さが、いい作り手には必要だと思うんです。写真家はキャッチャーで、世界はピッチャーな訳です。ここの範囲の球しか投げないでください!という視野狭窄なキャッチャーの指示は、撮影上、シンプルで楽ではありますが、面白くない。世界はもっと面白いはずです。途端にボールを真上に投げるピッチャーの球だって捉えられないと。何が起こるかわからないからワクワクする。その興奮や緊張感を捉えていない写真には、誰も胸をときめかせません。

 話が逸れましたが、僕は自身が撮影をしているので、どうしてもすべての写真を目にしてしまう。ですが完成された雑誌を見る人はそうではないので。似たような候補の写真が何枚もある中でこの写真を見るのと、この1枚だけを見るというのは、見え方が全然違うと思うんですよ。だから、一緒に作り上げていくスタッフの方たちに、これがいいかどうか、たった1枚で判断をしてほしいんです。読者と同じ目線で。もちろん、発表前に実際の読者に「どちらがいいと思う?」と聞けたら一番いいのですが、それはできない。だからこそ自分たちの中に、より多くの読者を存在させておく必要がある。とてもエゴイスティックな言い方ではありますが、送られてきた1枚の写真をパッと見た時に「あ、いいな」と思えたならば、その写真で正解なんです。なぜなら読者も同じように感じるはずなので。自分でも頑なだとは思いますが(笑)。

第2回につづく

展覧会情報

現在、東京・品川のキヤノンギャラリーSにて、写真家・奥山由之による写真展「白い光」が開催中です。本誌と併せ、ぜひこちらの展覧会もお楽しみください。
奥山由之写真展「白い光」

イベント 奥山由之写真展「白い光」
開催日時 2019年3月7日(木)-4月15日(月)
休館日 日曜日・祝日
開館時間 10:00open / 17:30close
会場 キヤノンギャラリー S
東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー1階
*JR品川駅港南口より徒歩約8分、京浜急行品川駅より徒歩約10分
入場料 無料
お問い合わせ 03-5777-8600
公式サイト https://cweb.canon.jp/gallery/s/

 
 

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SWITCH Vol.37 No.3 特集 奥山由之 写真の可能性

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